刑事訴訟法で習う基礎知識に「Ineffective Assistance of Counsel」というのがある。日本語にすると「弁護人としての機能の不備」というところだろうか。米国修正憲法第6条(Sixth Amendment)では「全ての刑事訴訟において公正なる裁判」が保証されていると同時に、その裁判において代理人による弁護を受ける権利が明記されている。しかし、弁護士がついていればそれでいいというものではない。合理的かつ一般的な基準に見合った仕事をしてくれる弁護士でなければ裁判そのものが公正とは言えない、という考え方だ。
Amendment Six:
"In all criminal prosecutions, the accused shall enjoy the right to a speedy and public trial, by an impartial jury . . . to be informed of the nature and cause of the accusation; to be confronted with the witnesses against him; to have compulsory process for obtaining witnesses in his favor, and to have the Assistance of Counsel for his defense."
前回ブログで取り上げた「Miranda Rights」も上記の修正憲法6条の解釈に基づく判例だった。被告のMirandaさん自身においては、最高裁での劇的勝訴に関わらず、その後の裁判で再度有罪確定という「元の狢」的結果だったが、あの判決で確立された「法的プロセス」は非常に意義深い。司法の番人とも言える裁判所は「プロセスの番人」だ。東山の金さんのように公正な裁きが第一義目的ではない。結果にいたるプロセスがフェアか、フェアでない場合には不備な点をどうやって修正するか、その舵取りをする。
「Ineffective Assistance of Counsel」をそのままGoogleで検索するとトップにあがるのは代々の
関連判例分析集。Capital Defense Networkという、死刑や無期懲役に処された被告人の弁護士ネットワークが提供する資料集だ。映画やテレビにも時々登場するが、アメリカの囚人は実は刑務所図書館で過ごす時間が多い。刑期短縮等、自由の身に一歩でも近づくため、上訴への道を自分なりに探すのだ。容易に想像できるが、「弁護士がお粗末だった、よって自分は公正な裁判を受けられなかった」的な議論はお手軽かつ現実性があるように思えるのだろう。
Ineffective Assistance of Counselの代表的な判例はいくつかあって、一番良く引用されるのはStrickland vs. Washington (466 U.S. 668 (1984年、米国最高裁判所))。「弁護人の不備」の基準を次のように確立した判例だ:(1) 合理的、一般的基準にみたない弁護活動、(2)弁護人の不備が裁判の結果に影響した(つまり、弁護人の不備がなければ、裁判の結果は違っていた)。
一般的基準に満たない弁護人とはどんな人?具体的なケースで有名なのはTippins V. Walker (77 F.3d 682 (1996年、NY地区連邦高等裁判所)。裁判の間、頻繁に昼寝をした弁護士。ちょっとウトウトどころでなく、完全に眠りこけ、裁判官にも陪審員にも聞こえる大いびきをしていたらしい。「寝ている弁護人は弁護人がいないに等しい」という過去の判例を引用し、Tippinsさんは何度も上訴を試みた。連邦高等裁判所で取り上げられ、やっと日の目を見た結果、「裁判の殆どの時間を寝て過ごしたこの弁護人は確かに不備であり、被告人のSixth Amendmentで保証された権利を脅かすものだった」とされた。そして裁判のやり直しが命じられたが、Tippinsさんがその後より優秀な(裁判中起きている)弁護人のもと、よりよい結果が得られたのだろうか。残念ながらそれ以降の記録は見つからなかった。
ロースクールでは疑似裁判を行う授業もあった。印象に残っているのは「裁判中にウトウトしてしまった時のテクニック」。その時の話の流れに関係あろうがなかろうが「立ち上がって、『異議あり!』と叫ぶべし」と。何はなくとも、まずは異議を唱えることで裁判への積極的関わりをアピールする。弁護士の基本としてそんなことを教えられたものだ。『寝ている弁護士』判例の多さに照らして考えると、うなずける気もする。
(ちなみに筆者は弁護士業務遂行中に寝てしまった覚えはない。。。 と思います。)

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